初めてこちらにお邪魔致します、三笠屋円太と申します。
生まれは、この会社の近く、人形町でして・・・入社させて頂いたのは、四月からなんでございますよ。もう四十の声を聞いているという、周りからは、あの野郎は半分もうろくしてるんじゃねぇか?なんて言われるような案配でしてね。いやいや、もう、本当に迷惑かけ通しの、煮ても焼いても食えない中途採用でして。んなこと、手前でいってりゃあ世話ないって?
こりゃまた手厳しい・・・まぁでも本当にそうですな。売り上げもたたないのに、時間だけは、時だけは、きちんとたちますよ。お天道様も酷なもんでございます。
ええ、もう、入社してから半年ですよ。ただもうびっくりするやら、自分が情けないやら。
昨日も「今年一番の冷え込み」なんてぇことだそうで。
つい先までは、上期の決算だ、下期の予算だ、はたまた、来期はどうのこうのと、何ですな、商いというのは、いつも「金」に追われるというのも、これまた定め。とはいえ出来の悪い円太には、つらいものでございますよ。「江戸っ子の生まれそこない金を貯め」てな、気の利いた風な口をきいているそばから、「それにつけても金の欲しさよ」と、小声で付け加えるような具合でしてね。
どうせ金の話なら、ひとつ景気の良い話でも・・・と、それこそ見得を切るような話もしたいものではございますが、生憎と調子の悪いことに、仕掛かっている仕事で、ちょいと、おたからを頂戴する段取りが、はかばかしくなかったりしておりまして・・・まぁこんな時分ってぇのは、やることなすこと、うまくいかないもんでございます。
んなわけで、そんな時には、こちらっから趣向やら気分やらを変えて、ちょいと変わった「金」の話でもしてみようかと思い立ちやした。チョウチョの話なんですよ。てふてふ、菜の葉に止まれ、の、あの蝶々です。
オオゴマダラというのがいるんだそうですよ。オオゴマダラ・・・大胡麻斑蝶という、まぁ大層な名前が付いております。何だか、南の方の島に住んでるらしいんですがね、ええ。日本でも最大級の大きさで、13cmほどだとか。大きいんですよ。今どきな言い方なら、超蝶々!みたいな!ってんですか?
まぁ、とはいえ、写真で見るだけなら、図体はでかいらしいが、普通のアゲハチョウみたいなもんです。なあんてこたぁない。
変わっているといやぁ、こいつはガキの時分、芋虫の頃っから図体がでかい。およそ7cm。ものの本には「白黒の縞模様で、体側に赤い斑点が一列に並ぶ。頭部と尾部に黒く細長い角がはえている」といいますから、こんなものが机の上にでもいようものなら、叫んじまいますな。ちょぉぉおおお!
こいつは、変わりもんで、アルカロイドという、毒を含んだ葉っぱしか食わないそうです。だから鳥だのなんだのという外敵も、そうそうこいつを食っちまうなんて事はないらしい。
でね、ここからなんです、本当に変わってるってぇのは。この毒虫から蝶々になる間なんですよ。サナギ。これがねぇ、もう本当に。
どうです?金なんです。まっきんきん!
円太、初めて見たときゃ「おまいさん、太閤様の縁者か何かかい」と疑いたくなる・・・失敬、失敬、若い方にはわかるめぇ。今なら差し詰め、「おまいさん、バブルかい、バブってるのかい?」と疑いたくなるってえくらいの、金ぴか具合、はじけ具合。
不思議ですなぁ、本当に。
小難しい理屈になりますと、こういったのは「構造色」というらしく、玉虫やらCD-Rの裏っかわやらみたいなもんで、金や金色とは、直接関係ないとのこと。酔狂な方は「構造色」で、ウィキって下されば幸い。
それから、実際にこの蛹を拝んでみたいという方は・・・東京なら「足立区生物園」で、運が良ければですな、蛹が見られるどころか、孵化するところも見られるかも知れないとのこと。
しかしまぁ何ですな、金、金色。たかが金、されど金。このチョウチョさんが、さなぎになる時に、なんでまたこんな色を選んだのか。はたまた、わたしら人間は、なんでこうも金に執着するのか。こうやって考えてみると、思いは尽きません。
おっと、初のお目汚しにも関わらず、長くなっちまいました。
本日は「金」にまつわる不思議なお話。
円太のつまらぬ現実逃避にお付き合い下さり、ありがとうございました。
(株)フェザンレーヴ さんの投稿 投稿時: 18:10
